事業を開始するときに法人をつくるか個人事業で行うか、法人をつくるとしたらどのような法人にするかに
ついては誰しも考えることだと思います。
特に2006年5月の会社法施行に伴い、資本金1円、取締役1人でも株式会社を設立できるようになった
ことから選択の幅は広がりました。
■法人のメリット・デメリット
一般的に法人で事業を行うことのメリットは
1.社会的信用
2.資金調達
3.税金面(ただし、一定以上の売上がある場合)
であるといわれています。
反対にデメリットは、会社法施行前までは最低資本金(株式会社の場合最低1,000万円)が
一番の課題でしたが、最低資本金制度が撤廃された現在では設立手続の煩雑さが一番のデメリットとされ
ていています。
■本当にメリットなのか
ところで、本当にこれらはメリットであったり、デメリットであったりするのでしょうか。
1番目の社会的信用に関しては、最低資本金制度があった時代には確かに多少は信用があったかも
しれません。しかし、資本金が1円でも株式会社を設立できるようになった現在では「株式会社」であること
自体はあまり大きな意味は持たないと思われます。それよりも、業績や財務内容、経営姿勢が大きく
問われます。
2番目の資金調達のうち、金融機関からの借入に対しては大きな差はないというのが日頃の業務を通じて
の印象です。大企業ならばいざしらず、金融機関のほうから「借りてください」といってくれるような比較的
業績がよい中小零細企業でも、いざ借入の段になれば代表取締役は連帯保証人になることを求められて
います。株式会社は理論的には「有限責任」ですが、代表取締役が連帯保証に入ったり、個人資産を担保
としたりするため実体は「有限責任」とはいいきれません。他方、出資や社債による資金調達ということで
れば、法人であることにメリットがあります。
3番目の税金面は、2006年4月に「特殊支配同族会社の給与所得控除の損金不算入」という法人税法
の改正があるまでは一定以上の利益がある事業については法人にしたほうがメリットがあるといわれて
きました。しかし、現在国は、個人事業者と実質は個人事業でありながら法人格をもっているもの(特殊
支配同族会社)との間に課税上の差がでないように調整する方向に入っているようです。そのため親族
だけで出資も経営も行っているような法人では法人であることが短期的には必ずしもメリットとはいえなく
なりました。ただし、この「特殊支配同族会社の給与所得控除の損金不算入」は施行1年を待たずしてまた
改正案がでているので今後どうなるかはまだわかりません。
■本当にデメリットなのか
一方、デメリットといわれる「設立手続の煩雑さ」ですが、確かに「個人事業の改(廃)業届け」一枚で開業
したり廃業したりできる個人事業に較べれば法人を設立する手続は煩雑です。費用もかかります。
しかし、「設立手続の煩雑さ」はこの先事業を継続させていくことに伴って生じる種々の手続の煩雑さや
かかる費用の大きさに較べれば、小さなものではないでしょうか。
■あまり語られないメリット
税理士の立場からすると、法人化のメリットは事業用の資金と家計を切り離すことでお金の管理がしやすく
なることです。
個人事業の場合は、1年間事業を行って翌年3月に確定申告の段になって初めて税金を幾ら納めなければ
ならないのかが確定します。そして、それからその所得に応じて、住民税や国民健康保険税その他の金額
が決まります。しかもその納付は「月額幾ら」ではなく年数回という不定期な支払になるのため、一体自分
が幾らお金があるのか、幾ら使うことができるのかが把握しづらい状況にあります。
一方法人の場合は、役員報酬は毎月定額であり(期の途中で変えることは原則できません)、そこから
源泉所得税や住民税の特別徴収、社会保険料を控除した金額を受け取るので、個人の可処分所得が
明確になります。万が一、会社に対してお金を貸したときは「貸付金」として、きちんと決算書にも載ります。
事業の財務状況が明確だということは経営戦略もたてやすくなります。
ただし、そのためには、日頃の経理処理が滞りなく行われることが大前提なので、これをメリットと考えるか
デメリットと考えるかは人それぞれでしょう。
また、そこまでの事業規模になっていない場合は、法人的な考えを採り入れつつ、個人事業と家計を
しっかりわけて運営していくという方法もあると思います。
結局のところどのようなこともメリットにするかデメリットにするかを決めるのは経営者自身です。
目先のお金や手間暇、見映えも大事ではありますが、「自分のやりたい事業のためには、どうあるのが
よいか。そのために、今はどうするのがよいのか」を一番に据えて道を選びとっていただきたいと思います。
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